さいたま市の埼玉県民健康センターで開かれた彩の国さいたま人づくり広域連合2017年度政策研究成果発表会に午後から参加し、「持続可能な郊外住環境実現プロジェクト」研究会と「公共空間の利活用による地域活性化プロジェクト」研究会の研究成果の発表を聞きました。彩の国さいたま人づくり広域連合のサイトから2010年度以降の政策課題共同研究の活動レポートや報告書はダウンロードできます。
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持続可能な郊外住環境実現プロジェクト」の報告後、コーディネーター藤村龍至さんの「講評・解説」がありました。パワポのスライドを印刷したものが配布されたので一部を掲載しておきます。東武東上線沿線の自治体区分では、和光市~ふじみ野市が安定通勤圏(都内通勤率25%以上)、川越市~滑川町が変動通勤圏(都内通勤率10%以上25%未満)、嵐山町~寄居町が地域通勤圏(都内通勤率10%未満)になります。

都心通勤圏の縮小

・1970年、1990年、2015年と移行するに従って都心一極集中傾向は弱くなっている
・10%通勤圏を1つの指標とし、東京駅と新宿駅を都心と定義して都心からの距離との関係をみると1990年代は都心60㎞圏まで拡大しているが2015年には40㎞まで縮小している

「変動通勤圏」に空き家と高齢者が集中する

・広域行政単位ではなく鉄道沿線単位で地域を再設定し、状況を把握
・丘陵地に大規模NT(ニュータウン)の開発が進んだ西武池袋線・東武東上線と旧街道沿いに敷設された路線では状況が異なる
・埼玉県内で鉄道沿線自治体の都内通勤率のデータをみると、大きく3段階に分かれる
・都内通勤率が40%程度の「安定通勤圏」と10%以下の「地域通勤圏」のあいだを「変動通勤圏」と定義
・「変動通勤圏」=将来高齢者と空き家が集中的に発生するであろう地域
・JR高崎線でいうと上尾から行田までの地域がそれにあたる(=圏央道沿線自治体)
・現状では住宅政策・都市政策ともに対象化されているとはいいがたい

鉄道4路線ごとの課題の課題パターン図
政策課題共同研究報告書概要版2015年度

遠郊外住宅団地をあと10年以内に本物のリタイアメントコミュニティに
・男性の89.1%、女性の100%が80歳前後で自立度2、84歳前後で自立度が1へと低下
・1980年代に団塊の世代を受け入れた遠郊外受託団地の住民の自立度が一斉に低下するのは2027年前後
・生涯活躍のためには社会性の維持が鍵となるが郊外住宅地では空間もコンテンツも不足している
・住宅地を病院のように機能させる=24時間訪問医療介護の体制を可能にする空間づくりが鍵
・空き家を提供し小規模多機能居宅介護のための拠点にしたり、日常的な交流空間に転用する
・住民の理解が不可欠だが「閑静な住宅地」という虚構から抜け出すためには早めの啓蒙が必要

自然発生的なリタイアメント・コミュニティ
・高齢化率は中山間離島地域並みだがその範囲がコンパクト
・住民の経済的なポテンシャルが高い
=自然発生的なリタイアメント・コミュニティが発生している(園田真理子)
 足りないのは24時間の身守り体制や交流空間など
→適切な再投資が必要

鳩山NT:地方創生関連交付金を活用し「コミュニティ・マルシェ」を整備【略】

かすみ野:医療法人・社会福祉法人が積極的に施設開放し街と関わる【略】

白岡NT:住民集会所を利用しカフェ&マルシェを試験的に実施【略】

香日向:空き店舗を利用したトークイベントによるイメージの共有【略】

椿峰NT:シンポジウムから公園利活用、まちと緑をまもるプロジェクトへ【略】

住宅団地再生の空間戦略
住宅と施設のあいだの「マルシェの層」と「住み開きの層」の活性化に活路を見出す
<マルシェの層>
・対象:空き店舗等の再活用・公園等の利活用・小学校の空き教室等
・公共施設として整備・民間企業が提供・住民有志が自ら開催など
・若い世代にとっては小さな起業の場・高齢者にとっては居場所・対外的にはまちのイメージを発信する場
<住み開きの層>
・住宅の1階のリビング等を小さく改修して外部へ開いていく
・第1種住居専用地域の専用住宅を50㎡未満の店舗等に改造し兼用住宅化
・保健所の対応(「専用区画」の定義等)、協定等の改定など周辺住民の理解が重要

住宅団地マネジメントの担い手像
担い手像は世代によって変化しており、45歳以下を巻き込むにはマルシェが有効
<地縁組織型>
・自治会、婦人会、老人会などで上の世代から地域の行事(餅つき・夏祭り等)を受け継ぐ
・大きな組織を代々引き継ぎトップは75歳以上の男性、会長OBらが顧問というケースも多い
・自らは高い志に支えられて参加しているが下の世代が引き継ぎたがらないのが共通した悩み
<緩やかな連帯型>
・団塊の世代(1947-49年生まれ)を中心としたアクティブシニアなどがNPO法人を設立
・強制的に参加させられる既存の地縁組織に強い違和感があり自発的なボランティア活動に高い意欲
・企業等で安定的に雇用されていた世代であり自分で稼ぐことには大きな抵抗感がある
<スモールビジネス型>
・団塊ジュニア世代(1971-74年生まれ)前後の子育て世代などが起業し株式会社等を設立
・非正規雇用が多かった世代であり稼ぐことに意欲的だが持続性のないボランティア活動には強い抵抗感
・ツールを駆使してソーシャルネットワークを形成しマルシェなどで積極的に交流

持続可能な郊外住環境実現に向けて
3年間にわたって取り組んだ研究のまとめ
・通勤圏縮小に伴い遠郊外(東京の場合都心40-60㎞圏)が特に空洞化しつつある
・郊外自治体の市街化区域の中で再スプロール化がおこっており小さな地域間競争が発生
・住宅団地の高齢化率は高いがその範囲はコンパクトで住民の経済的ポテンシャルは高い
・一部では自発的なリタイアメントコミュニティが出来上がりつつある
・足りないのは24時間の医療福祉体制や交流空間の整備
・住宅団地の再投資には公共投資の例もあれば、民間投資の例もあるが投資効率は高い
・住宅団地で得られたノウハウを既存の公共サービスや施設の体系にフィードバック
・いずれも空きストックの有効活用が鍵
・空間的には「マルシェ層」と「住み開き層」の活性化が鍵
・担い手像は世代によって変化しており、多世代を巻き込むにはマルシェは有効
・(1)地域の空間資源を再検討し(2)人材を発掘し(3)世代を超えた協働から起業へとつなげる
・行政はまず研究対象化をはかり、プロジェクトを設定し、実験を行うことが有効

2015年度共同研究報告書『「埼玉県の空き家」の課題パターン抽出とその解決策の提言』

※2016年5月20日、16年度政策課題共同研究オープニングセミナーレポート(全文
政策課題共同研究オープニングセミナー2016年度1政策課題共同研究オープニングセミナー2016年度2政策課題共同研究オープニングセミナー2016年度3

※2017年2月10日、2016年度成果発表会(プレゼンテーションスライド
2016年度研究報告書『「サステイナブルタウン」を目指して-超高齢社会の包括的タウンマネジメント-』

※2017年5月18日、17年度政策課題共同研究オープニングセミナーレポート(全文
政策課題共同研究オープニングセミナー2017年度
2017年度研究報告書の発行がまたれます。

※鳩山ニュータウンについては『週刊東洋経済』第6772号(2018年2月3日)88頁に牧野和弘「人が集まる街 逃げる街第12回 鳩山ニュータウン[埼玉県] かつて栄えたニュータウンで深刻化する“孤立化”」が掲載されています。