岩崎邦彦さんの『農業のマーケティング教科書 -食と農のおいしいつなぎかた-』(日本経済新聞出版社 、2017年11月)を読みました。アンケート専門サイト(Webアンケート方式)の「消費者調査」「全国農業者調査」などから見えてきた「食」と「農」を結ぶ道を読み解いた本です。

はじめに
 高品質なモノはたくさんある
 消費者は「食べるモノ」ではなく「食べるコト」を買う
 売り込まれて、買いたくなる人はいない
 「食」と「農」をつなごう

第1章 農業を再定義しよう
 「農」と「食」が強い国の共通点
 「おいしい」が意味すること
 「農」と「食」と「幸せ」の関係
「農」と「食」と「幸せ」の間には、明らかにポジティブな関係が存在している。
 この結果からは「消費者」と「農」との心理的な距離感が近くなれば、食の満足度が向上し、幸福感が向上することが示唆される。
 「農」の先には「おいしい」があり、「おいしい」の先には「幸せ」がある。
 農業は、単に農産物を生産するだけの仕事ではないということだ。人々の幸福の基盤となる、誇り高き仕事である。農業や農村の活性化は、農業分野だけに止まらず、人々の幸福感にも結び付く。
 そう考えると、現代の農業は「農産物の生産業」という辞書的な意味を超えて、「幸せ創造業」と定義しても、過言ではないだろう。(20頁)

第2章 農業にマーケティング発想を
 マーケティングとは何か
 「食べるもの」の日がなぜ普及しないのか
 「食べるモノ」から「食べるコト」へ
 マーケティングへの関心の高まり
 「販売」と「マーケティング」とは違う
 消費者目線になっているか?
 顧客と同じ方向を向こう
 言うは易く、行うは難し
 「生産者目線」を強制的に「消費者目線」に変える方法
①「売る」という言葉を禁句にし、「買う」と言い換える
②「何」ではなく「なぜ」で発想する
③「食べるモノ」ではなく「食べるコト」をイメージする
④「農産物をつくる」ではなく、「顧客をつくる」と考える
⑤小売店に行って、自分が生産した農産物を自腹で買ってみる

第3章 品質を決めるのは消費者である
 生産者の品質 ≠消費者目線の品質
 「おいしさ」が生まれるのは、農場ではなく、食事の場である
 人は、舌だけで味わっているのではない
おいしさは「五感」と「頭」と「心」の“掛け算”で生まれる。(57頁)
 知覚品質をいかに高めるか
①「ブランド」で知覚品質が高まる
②「見える化」で知覚品質が高まる
③「言える化」で知覚品質が高まる
④「物語」で知覚品質が高まる
⑤「掛け算」で知覚品質が高まる
⑥「陳列」で知覚品質が高まる
⑦「価格」で知覚品質が高まる

第4章 うまくいっている農家にはどのような特徴があるのか
 469の農業者を調査
 好業績に影響を及ぼす要因
 好業績の農業者の特徴
①消費者と交流している、消費者の声を聞いている
②価格競争に巻き込まれにくい
③安定的な販売先を確保できている
④核(シンボル)となる商品がある
⑤女性の力を積極的に活用している
⑥「農産物を収穫するところまでが主な仕事」とは考えていない

第5章 どうやって強いブランドをつくるか
 ブランド化とは何か?
 ブランドは「品質」を超える
 モノづくり≠ブランドづくり
 ブランドで表面をつくろうことはできない
 ブランド力を評価する方法
①名前の後ろに、「らしさ」という言葉をつけてみる
②目を閉じて、頭にイメージを浮かべてみる
 「ブランド」と「名前」の違い
 ブランドに関する誤解
①「知名度を高めれば、ブランドになる」という誤解
②「品質を高めれば、ブランドはできる」という誤解
③「広告宣伝費がないと、ブランドはできない」という誤解
④「まずは、ロゴをつくろう」という誤解
⑤「数の多さを売りにして、ブランド力を高めよう」という誤解
 「強いブランド」にはどのような特性があるのか
①ブランド・イメージが明快である
②感性に訴求している
③独自性がある
④価格以外の魅力で顧客を引きつけている
⑤情報発生力がある
⑥口コミ発生力がある

第6章 「違い」が価値になる
 「普通」の農産物はブランドにならない
 個性化は「特殊化」ではない
 「二番煎じ」は、ブランドにならない
 危険な「ヨコ展開」という発想
 いかに個性を出すか
①「味覚、香り、食感」で個性化
②「形状」で個性化
③「サイズ」で個性化
④「色」で個性化
⑤「パッケージ」で個性化
⑥「生産方法・販売方法」で個性化
⑦「肥料・エサ」で個性化
⑧「品質基準」で個性化
⑨「生産場所」で個性化
⑩「ずらし」で個性化
⑪「ストーリー」で個性化
⑫「利用シーン」で個性化
⑬「用途の限定」で個性化
⑭「売る場所」で個性化
⑮「逆張り」で個性化
 ダメな違いの出し方
①「『一本のモノサシ』で測ることができる違い」
②「消費者が気づかない違い」
③「消費者にとって価値がない違い」

第7章 どうすれば六次産業化は成功するのか
 マーケティングに問題を抱える六次産業化
 六次産業化に関する誤解
①「規格外品の活用のために六次産業化する」という誤解
②「六次産業化は、新商品開発である」という誤解
③「『加工食品業』の土俵に乗る」という誤解
 六次産業化の成功要因は何か?
 六次産業化成功の3つのポイント
①「独自性がある」
②「販売チャネルの確保」
③「高品質・安心安全」
 いかに売れ続ける商品をつくるか
 ロングセラー商品を生み出すポイント
①おいしすぎない!?
②「変わらないもの」と「変わるもの」のバランス
③近視眼にならない

第8章 農業の体験価値を伝えよう
 コトの中に農産物を位置づける
 1の体験は100の広告に勝る
 消費地に行くより、産地に来てもらおう
 「農業」を「観光」を掛け算しよう
 農村観光にひかれる人々は、どのような特性を持つのか
①「現地の人々との出会い・交流」を重視している
②「自然」を重視している
③「学び」を重視している
④「体験」を重視している
⑤「その地域ならではの商品や食」を重視している
 「農業」と「飲食業」を掛け算しよう
 「農家レストラン」にひかれる人々の特徴
①小規模店志向である
②健康志向である
③食の口コミ発信源である
④グルメ志向である
⑤環境志向である
⑥リピート志向が強い
 農家レストランにおけるマーケティングのポイント
①軸は、あくまで「農業」である
②メニューの「足し算」をやめよう
③「核となる商品」をつくろう
④「ライブ感」を大切にしよう
⑤「飽きない」を意識しよう

第9章 さあ、前に踏み出そう!
 マーケティングの失敗を招く4つの誤解
①「『○○離れ』だから、厳しい」という誤解
②「後継者がいないから、厳しい」という誤解
③「規模が小さいから、競争力がない」という誤解
④「経営改善をすれば、強くなれる」という誤解
 さあ、行動しよう!

おわりに
機会を生かす、自助努力・創意工夫、発想転換(209頁)

参考文献