宮内泰介さんの『歩く、見る、聞く 人びとの自然再生』(岩波新書1647、2017年)の目次です。

第1章 自然とは何だろうか?――人間との相互作用
1 生活の場から
岩のりの採集/何のために、誰のために自然を守るのか
2 ヨシ原という自然から考える
北上川河口のヨシ原は、どう生まれたか/地域住民のヨシ原利用/生物多様性を支えるヨシ原/攪乱
3 日本列島の自然の歴史
森は少なかった/草地の減少/落葉広葉樹や草原は、なぜ残ったのか/人間の活動が作り出した多様性
4 自然とは何だろうか
自然保護の考え方の変遷/生物多様性/里山保全という考え方/生態系サービスという考え方/自然とは何だろうか
5 半栽培
「半栽培」という考え方/多様な事例/三つの半栽培/半栽培のダイナミズム/竹林の変遷
6 伝統的知識
自然保護は、ときに住民への抑圧になる/自然保護難民/伝統的な生態学的知識

第2章 コモンズ――地域みんなで自然にかかわるしくみ
1 自然と社会組織
磯物と契約講/海の資源と地域組織/山の資源 ススキ
2 コモンズと「所有」
コモンズとは何か/「コモンズの悲劇」?/コモンズはどのように生まれるのか/誰のものか/フットパス/所有とは何だろうか
3 なぜ「集団的」なのか
歴史から来る「集団」のかかわり/みんなが納得できる柔軟な資源管理/コモンズの効用
4 災害とコモンズ
東日本大震災/合意形成とコミュニティ
コモンズの効用
 なぜ資源管理は地域で集団的におこなったほうがよいのか、なぜ人びとはそれを選択してきたのか、これまで見てきたコモンズの「効用」を整理してみよう。
 第一に、当事者たち自身によるルールによって適切な資源管理が可能になる。
 第二に、当事者たち自身によるルールなので、地域の事情に応じた細かで柔軟なルール作りや利益の分配ができる。平等への配慮、弱者への配慮など、地域の価値観を反映した資源利用が可能になる。
 第三に、当事者たち自身によってルールを決めるので、その決め方も含めて地域の中での「納得」をもたらす。たとえそれで何らかの不利益をこうむることがあったとしても、その正当性は維持される。
 第四に、個人や世帯を超えた地域全体の財産維持、地域全体の利益に資することができる。その際、個人・世帯の利益と地域全体の利益との間のバランスのとり方も、各地域の事情に合わせる形でできる。
 このように、地域みんなで自然にかかわることは、適切な資源管理であるだけでなく、複合的な意味合いをもっている。……(104~105頁)

第3章 合意は可能なのか――多様な価値の中でのしくみづくり
1 現代のコモンズ
ある都市の森林保全活動/都市部でのコモンズの実践/市民による森づくり/スペイン 干潟のコモンズ
2 順応的管理と「正しさ」をめぐる問題
何重もの不確実性/順応的管理とは何か/自然再生事業始まる/順応的管理の失敗/「正しさ」をめぐる争い/誰がかかわるべきか/どのような価値を重んじるのか/誰がどう承認するのか/世界は多様な価値に満ちている
3 多様な合意形成の形
むずかしい「合意形成」/ワークショップという技法/ワークショップの実践/無作為抽出された市民による討議/ハイブリッド型市民討議/合意とはいったい何だろうか/「合意」を広く考えてみる
4 順応的なガバナンスへ
柔軟性や順応性をもったモデル/複数のゴール/試行錯誤を保証する

第4章 実践 人と自然を聞く
1 聞くといういとなみ
奄美での聞き取りから/数値化による自然把握/「ppmに気をつけろ」/聞く/ふれあい調査/聞き書きをする/女川集落の日々/聞き書きの効用/物語が生まれる
2 物語を組み直す
感受性をみがく/歩く、調べる/外部者の役割

おわりにかえて 小さな物語から、人と自然の未来へ
小さな物語を大事にする/小さな社会からの自然再生

あとがき
主要参考文献