蔦谷栄一『オーガニックなイタリア 農村見聞録 -地域への誇り高き国に学ぶ』(家の光協会、2006年8月)を読みました。
オーガニックなイタリア

蔦谷栄一『オーガニックなイタリア 農村見聞録 -地域への誇り高き国に学ぶ』目次
 はじめに
第1章 イタリア農業の概要
 多様性と地域性に富む国土/地域によって異なる農業/EUの中では小規模経営/起きつつあるCAP[EU共通農業政策]との距離/コラム:マサノブ・フクオカ

第2章 有機農業の歴史・現状・制度等
 1 有機農業の歴史と現状
 1970年前後から取り組み開始/1990年代後半に大きな伸び/ヨーロッパ最大の有機栽培面積/島嶼部と中北部に集中する有機栽培/量販店での取り扱いシェア増加/高い輸出の割合/認証

 2 有機農業に関する法律・制度
 EU共通農業政策が基本/環境支払いの中に位置づけられる有機農業/水質汚染に端を発するEUの農業環境政策ウエートが高まる農業環境政策/EU共通部分と各国規定とに分かれる農業環境プログラム/農家経営を支える直接支払い/コラム:夜遅くまでの集会

第3章 有機農業取り組みの現場
 1 生産・加工の現場から
  水田耕作 有機稲作と不耕起水田のビオトープ
    ピエモンテ州テヌータ・コロンバーラ
 ヨーロッパ有数の水田稲作地帯/味覚のプロである父親と環境にこだわる息子/いい環境がいい米を作る/エコロジー網、エコロジーの回廊を形成/収量ではなく品質で勝負/あわてず急がずゆっくりと

  野菜 在来種・自家採種による多品種少量生産
    ピエモンテ州ロルト・デル・ピアン・ボスコ
 大規模面積での多品種少量生産/有機そして在来種へのこだわり/直売・小売店志向と加工/必ずしも付加価値が実現できていない有機栽培

  ブドウ・ワイン 直接販売能力に見合った適正規模経営
    ピエモンテ州マリオ・トレッリ
 手作業時代のワイン製造施設を展示/有機栽培の裾野に広がるエココンパティビレ/グローバル化で広がる病害虫/規模拡大よりも品質重視/必要なEUからの支援

  モツァラチーズ 消費者との交流が育む手づくりの味
    カンパーニャ州テヌータ・ヴァンヌーロ
 あくまで手づくりにこだわった最高のモツァレラチーズ/有機畜産による水牛飼養/消費者との交流を軸にした多様な展開

  畜産・加工 安全性重視と家伝のレシピ
    ピエモンテ州カッシーナ・サヴォイアルダ
 スローフード運動で再評価を得た黄金の魚ティンカ/自然・生理を無視した近代畜産/家伝のレシピからつくられる極上の味/持続的循環型生活の大切さ

 2 流通・販売・認証の現場から
  1 流通・販売
   地域性を活かした農業と情報開示・文化伝承
    ピエモンテ州カッシーナ・デル・コルナーレ
 日本に学んで宅配を開始した小さな販売農協/農的志向は自分探しの旅/消費者への徹底した情報開示/地域の伝統を発掘し伝える活動

   有機とフェア・トレードへのこだわり
    エミリア・ロマーニャ州コナピ
 理念に「倫理的に」/あくまで生産者の立場で/厳格な管理から生み出されるハチミツ/有機が基本/フェア・トレードへのこだわり

  2 認証
   消費を伸ばし有機農業の拡大をめざす
    エミリア・ロマーニャ州CCPB
 有機認証機関の概要とCCPB/拡大余地が大きい有機農業/最大シェアを握る生協と増加する学校給食での利用/環境、自然と有機農業/コラム:旦那と奥さんとはどちらが強い

第4章 地域づくり、地域農業の現場

  “良心”の貫徹を目指すスローシティー
    リグーリア州レーヴァント
 リゾート地からスローシティーへ/スローシティーとレーヴァントプロジェクト/“自由市民の市長たち/地域資源の再発見とアイデンティティの確認から/目指すは“良心”ツーリズム/交通システム:中心街からの車排除/ゴミ処理:分別の推進とゴミ箱のある風景の改善/エネルギー:景観を損なう太陽光パネル/農業:自らの“良心”をもって選択を/子どもを育てることを通じて大人が成長/最大のプロジェクト:マンジャルンガ/日本へのメッセージ「自由な人間から出発を」

  地域農業と福祉に体をはる逞しき協同組合
    シチリア州ビータ・ビオ・グループ
 マフィアの土地を有機農業による地域農業の土地に/カーサ・ディ・ジョーヴァニ(Casa dei Giovanni)/サッコ(Sacco)/ロ・グラッソ(Lo Grasso)/ノエ(Noe)/ビータ・ビオ(Vita Bio)
  マフィアに立ち向かう若者たちの社会的協同組合
    シチリア州プラーチド・リッツォット
 マフィアの地で有機農業への取り組み/高品質ワインでVQPRD認証獲得/社会奉仕するボーイスカウトたち/いまでも恐れられているマフィア/反マフィア集会と我慢強いイタリア人

  有機農業と農村起業で過疎地帯を蘇らせた農業協同組合
    マルケ州アルチェ・ネロ
 「有機農業の伝道者」ジーノ・ジロロモーニ氏の地域へのこだわり/アルチェ・ネロの多様な活動/行動する哲学者/兼業収入と助成金んが支える中山間地農業

  伝統の味を守る地域組織
    ピエモンテ州チェルヴェーレネギ出荷協議会
 マチスの絵のような風景/地域組織で支えるチェルヴェーレネギ/コラム:夏休みのパーティー

第5章 アグリツーリズモの現場

  “ザ・実力者”が展開するアグリツーリズモと水牛経営
    カンパーニャ州セリアーノ
 南部よいとこ/年間7、8000人もの宿泊客/景観がすばらしい条件不利地域/有機農業よりはエココンパティビレ[減農薬減化学肥料栽培]

  そこにあるものを楽しむスローな旅“お泊まり村”
    リグーリア州レーヴァント
 アグリツーリズモを中心とした多様な施設/マンジャルンガの道とアグリツーリズモ/発展途上のアグリツーリズモ

  レストランも評判のアグリホテル
    ピエモンテ州スル・ピアーノ
 田舎暮らしを丸ごと体験できるアグリホテル/生きた農民の知恵と経験/市場がリードする地産地消/コラム:46年ぶりのアコーディオン

第6章 イタリア農業・農村と日本

  1 有機農業をはじめとする環境保全型農業とその政策
 EU支援によるイタリアの農業環境政策/わが国の農業環境政策の推移と現状/増加しない有機栽培と輸入品依存の有機ブーム/必要な政策支援の強化[……付加価値の実現を困難化しているのは、消費者の低価格志向の影響が大きい。アンケート調査等では、価格が2、3割高くても安全な食品・農産物を購入する、としている消費者が過半を占める結果となっているものが多いが、実際の消費者の購買行動はむしろ安全性よりも低価格志向を優占している向きが強く、行動レベルでは逆転して低価格を優占する消費者のほうが多い、というのが実態であると考えられる。消費者のさらなる理解を獲得していくことが不可欠である。……]

  2 地域性を生かす
 地域性重視と“EU化”への反対/わが国への示唆に富むイタリア農業
  3 経営の多角化
 川下重視から開かれる消費者とのコミュニケーション/地産地消推進と都市農業の見直し、兼業農家の再評価
  4 協同組織とその存在意義
 多様な形態をもって発展してきたイタリアの協同組合/小さいことをよしとするイタリアの農協組織/改革を求められている日本の農協組織[地域農業の確立・部会組織の活性化・販売事業の強化・CSR・ガバナンス]/コラム:スローフードなファーストフード

 おわりに 地域への誇り高き国に学ぶこと
 EUの中でも独自の道を行くイタリア/家族・地域へのこだわりと自由な精神/求められる信念・こだわり

 あとがき

 参考文献・資料
※蔦谷栄一「イタリアの有機農業,そして地域社会農業 -ローカルからのグローバル化への対抗-」(『農林金融』2004年11月号)要旨
1 イタリアの有機栽培面積比率は約8%で,世界で4番目,有機栽培面積ではヨーロッパで最大である。
2  90年代後半,年率で10%強もの伸びを示し,世界的に注目を集めてきたが,01年をピークに有機栽培面積は減少に転じている。
3 これは97年から5年間にわたってEUが有機農業への転換を支援し,特に島嶼部に手厚く設計されたことが大きく影響している。
4 イタリアの有機農業は,約3割を有機食品の輸出が占めていること,大規模層,若い層での取組みが多いことなどの特徴を有する。
5 こうしたなかで,現場では有機認証に要する手間や認証料負担,マニュアル的認証に対する不満が強い。
6 有機生産者は,直売も手がけており,在来種へのこだわり,歴史・文化・伝統を重視するものが多い。有機農業は一つの栽培方法や単なるマーケティング対応にとどまらず,地域社会農業的色彩を強く帯びた活動のなかに位置づけて考えられよう。
7 イタリアは国家統一が1861年になってやっと達成されたが,職人,家族経営,中小企業を大事にし,地域・歴史・文化を重視する風土が根強く,イタリア農業でもこうした考えが根強い。
8 EUのなかでもドイツ,フランス等と違って,我が国ではほとんど知られていないイタリア農業ではあるが,相互交流を促進していくとともに連携を強化し,地域性・多様性重視によってWTO体制下でのグローバル化,モノカルチャー化の進行に対抗していくことが望まれる。