伊藤一幸編著『エシカルな農業 未来のために今すべきこと 神戸大学と兵庫県の取り組み』(誠文堂新光社、2016年10月)第1部地域農業の発展のための神戸大学の取り組み、7里山保全と森林資源の活用(黒田慶子)を市民の森保全クラブの活動と作業エリアを念頭に置いて読みました。筆者の黒田慶子さんは、神戸大学大学院農学研究科資源生命科学専攻応用植物学講座森林資源学研究室教授です。

里山保全と森林資源の活用(黒田慶子)
 里やまへの郷愁
 本来の里山管理は農業の一部
 森林の形成と資源利用の歴史
 人が使わなくなって起こった植生変化と樹木の伝染病
 野生動物の増加と森林被害
 将来を見据えた里山管理とは
 神戸大学農学部での「実践農学」(森づくりグループ)の取り組み
 森づくりグループの演習の内容と成果
 里やまの管理を再開するための地域への提案

本来の里山管理は農業の一部

 里やまとは日常生活に必要な燃料や肥料を採集していた場所で、勝手に樹木が生えていた森ではない。子孫が資源を永続的に採り続けることができるように、上手に管理されていた。樹木の太さは10㎝ほどの若い広葉樹と、同様に若いアカマツ林が大部分を占めていた。背の低い若木が構成する明るい森だったのである。森林というより、収穫期が長め(15~30年)の畑ととらえるのがむしろ妥当だと思っている。その一部には茅葺きに使うための草地もあり、それも禿げ山とままた違った資源採取地であった。以上の理由で、里山林の所有者は昔も今も農家(集落の共同所有も含む)である。……里山林=雑木林+アカマツ林=農用林+薪炭林という見方をしてほしい。近年、多くの人がイメージする里山は、「大木があって緑豊かな森」となっているが、今はむしろ、「緑が異常に増えすぎてしまった」ため、森林に生息する多様な生物にとって、あるいは森林管理上に好ましいとはいえない状況である。……
 森林には様々なタイプや用途がある。里山林とは農村の集落の周囲にある山林を指す。広義では集落近くの人工林も含めるが、一般には人工林を除いた部分を里山林ととらえることが多い。行政上の区分としてはこの里山の林を「天然林」あるいは「天然生林」に分類しているため(林野庁)、まるで原始林・原生林のような手つかずの森のイメージを持つ人が多いが、現在は自然に任せているという意味であり、「天然の林」ではない。人々が生活の資源として使い続けてきた林であり、森林のタイプとしては「二次林」、つまり原生林的な林を伐ったあとに形成された二次的な林である。本稿では里山二次林と呼ぶことにする。田畑の部分は、里山に対する呼び方として近年は「里地」と呼んでいる。(伊藤一幸編著『エシカルな農業』89~92頁)