土木と生態が一緒に仕事をするテーブルづくり
 ここでいう“テーブル”には二つの意味がある。一つは河川事業をおこなう土木分野の人々と野生生物の保護を任務とする生態分野の人びとが一緒に仕事をするための、文字通りのテーブル(机)のことであり、もう一つは、両者が同じカテゴリーに属する情報を交換し共有するための、図あるいは表などに整理された資料のことである。すなわち、このような二つのテーブルを共有し、次項で述べるような作業を共同でおこなうことによって、土木事業(ここでは河川管理事業)を担当する専門家と生態分野の専門家が、知恵を出しあい、協力して、効果的な生息環境の保全を考えた河川事業(計画・工事・管理)をすすめるための条件づくりが、はじめて具体的に可能になるのである。
 河川事業は、治水や利水のための目的に応じて、川や湖の一定の広がりをもった特定の場所で、特定の季節に、地形を改変し、何らかの人工的な構造物を設け、場合によっては流量、流速、水位、あるいはそれらの時間的な変動に変化を与える仕事である。つまりその計画にかかわる情報は、特定された場所と、その場所における面積、構造、機能、質、および季節にかかわるものである。
 その事業に関連して、対象地域の野生生物の保護と保全を考える場合、そこに生息する動植物の種のリストが提示され、貴重種や重要種が指摘されるだけで、それらのすみ場の特性や正存に必要な環境条件に関する情報がともなわないならば、野生生物の生態を専門としない河川の管理者としては、効果のある対策を考えることはできない。この場合、野生生物の生息場所、生息環境にかかわる情報もまた、さきに述べたように、特定の場所と、その場所における面積、構造、機能、質、および季節(すべての野生生物の生活は季節と強い関係をもっている)にかかわる情報にほかならない。
 このような、同じカテゴリーに属する情報、いいかえれば共通の言葉で表現された情報を、土木と生態の両分野から一つのテーブルの上に提出し、重ねあわせることによって、はじめてその事業と野生生物の生息環境保全にかかわる問題点や合理的な両立点を探る議論ができることになる。
 すなわち、その事業を初期計画どおりにおこなった場合には、その場所に本来存在したすみ場の何が失われ、野生生物のいかなる種あるいは群集の生存にどの程度の損傷を与えるか、また、影響が予想される場合、それをどのような戦略(その事業の計画の見直し)あるいは戦術(設計や工法の見直し)によって回避ありいは代償できるか、あるいはさらに事業計画そのものを根底的に見直すべきか、等々の対応策が、共通のテーブルの上で、具体的に論議できるのである。
 以上のような仕組みを要約すれば、図④のようになる。(17~19頁、強調は引用者)
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