児沢の上の奥の田んぼの畦シートと畦の間にいました。田んぼの教室の生きもの観察で、こども達が目を輝かせるのは、アメリカザリガニ、ドジョウ、メダカや、ヤゴ、オタマジャクシを見つけた時です。まっかちんが田んぼを救うという記事が日経ビジネスオンライン(2014年6月27日)にありますが、アメリカザリガニには子どもを田んぼに引き寄せる大きな力があります。(マッカチンとはアメリカザリガニのこと。日本の固有種のザリガニ(ニホンザリガニ)は、現在、北海道と北東北にのみ分布する。関東地方にいる茶色や黄土色のものも皆アメリカザリガニです。)

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田んぼの日常管理では、アメリカザリガニは畦に穴を掘って田んぼの漏水を引き起こす厄介者です。ふさいでもふさいでも穴が開けられ、そこから田んぼの水が水路に漏れ出しています。

若杉晃介さんの論文「アメリカザリガニによる水田漏水の実態と対策(『農業および園芸』88巻・ 8号、2014年2月、養賢堂)の結言によると、
6.1 アメリカザリガニの掘削について
 現地踏査や水槽実験、ライシメータ実験から、アメリカザリガニの棲管掘削について以下のことが明らかになった。
 ① アメリカザリガニの掘削穴(棲管)は田面に対して垂直方向に掘削される。
 ② 畦畔際の掘削穴が排水路まで貫通すると漏水は著しく多くなり、さらに洗堀されることでより大きな穴となる。
 ③ 畦畔際の掘削穴でなくても耕盤層よりも深くなることで漏水が大きくなる。
 ④ 湛水していな状態での土壌硬度が20kg/cm2程度においても、アメリカザリガニは湛水条件下  では穴を掘削することが可能である。
 ⑤ 現地踏査では掘削穴は最深で100cmとなり、平均でも25cm程度になった。
 ⑥ l週間程度で約50cmの掘削穴を掘ることが可能である。
 ⑦ アメリカザリガニの掘削能力から、一般的に行われている畦塗りや畦シート埋設ではアメリカザ リガニの掘削による漏水は防ぐことができない。
 ⑧ 水田の水位(地下水位)に応じて掘削穴の深さが変化する。
 ⑨ 中干しや間断濯慨を行うことで掘削穴が増加し、地下水位が低くなるとより深い掘削穴となる。
とあり、「一般的に行われている畦塗りや畦シート埋設ではアメリカザリガニの掘削による漏水は防ぐことができない」ようです。アメリカザリガニによる漏水対策技術として3つあげられています。

6. 2 アメリカザリガニによる漏水対策技術について
 (1 )畦シートの埋設
 アメリカザリガニの掘削能力から、一般的に用いられている30cm幅の畦シートでは防ぐことはできない。そこで、畦畔からの漏水対策技術として、90cm幅の畦シートを排水路側にパックホーで掘削し、田面から70cm、畦畔に20cm埋設することで、畦畔から排水路に掘削される穴からの漏水を防ぐ 。アメリカザリガニの掘削は地下1m程度までの掘削が確認されているが、地下70cmまで対策することで、現地ほ場踏査で確認した全303個の掘削穴の約98%に対応することができる。

 (2)水田の地下水位コントロール
 アメリカザリガニの掘削穴は畦畔際でなくても耕盤層よりも深くなることで漏水が多くなる。また、地下水位が低くなると共に掘削穴も深くなることから、水田の地下水位をコントロールすることで掘削穴の深さを制御する。
一般的な暗渠排水整備の水閑(暗渠排水管の出口)は開閉しか出来ないため、中干しなどで地下排水を行うと、暗渠管埋設深である-60~-80cmまで地下水位が下がってしまう。そこで、暗渠管の出口に立ち上がり管を設けるサイフォン式暗渠(井上ら、1994)にすることで、暗渠の水閑を聞けても過度な地下水位の低下を防ぐことができる。
 また、近年は湛水深~地下水位まで任意の水位をコントロール可能な地下水位制御システムが開発されている(若杉ら、2009)。
本システムは水口側と水尻側にそれぞれ水位をコントロールすることができる装置が備わっており、水稲作付け時は水管理労力の軽労化や転作時では湿害と干ばつの回避などによる安定多収が期待できるシステムである。
なお、本システムの導入にはコストが掛かることから、圃場整備事業などの公共事業による導入が望ましい。

 (3)個体数の削減
 アメリカザリガニは特定外来種には指定されていないが、水田内において多くの問題を引き起こす生物である。水田漏水はそのうちの一つであるが、これらの問題を解決するにはアメリカザリガニの個体数を減らすことが重要である。通年湛水したビオトープでは異常な個体数の生息が確認されたが、このような良好な越冬地があることで、港銃期に田に移動して生息する可能性が高い。まずはこのようなアメリカザリガニが繁殖する場所を設けないこと、または過密して生息する時期を選んで駆除することによって個体数を削減することが重要である。 【図・写真は略】
 90㎝の畦シートを入れることや、水田の地下水位コントロールシステムを導入することは無理なので、当面、根気よく田んぼの漏水箇所を埋めながら、アメリカザリガニの個体数削減に努力していくほかなさそうです。