市民の森保全クラブの作業エリアは1ヘクタールという小さい面積ですが、市民の森(31.9㏊の東松山市の公園)と谷津の耕作放棄地(民有地)を含めてどのように保全していくのか考えながら保全作業をおこなっています。須藤隆一さん編『環境修復のための生態工学』(講談社、2000年)の第3章 森林生態系の保全と管理(鈴木和次郎さん執筆)を読んでみました。
   第3章 森林生態系の保全と管理(鈴木和次郎)
 3.1 森林生態系とは何か
  A.時間的・空間的にとらえた森林生態系
  B.森林生態系の特性と機能
 3.2 自然生態系の保全
  A.保護区(国立公園、自然環境保全地域、世界遺産)の設定
  B.生態的回廊の確保
 3.3 森林の生態系管理
  A.人工林地帯における生態系管理
  B.二次林の生態系管理
   a.木材生産を担う広葉樹二次林
   b.景観の保全と生物多様性を担う里山二次林(環境林)

     3.3Bb.景観の保全と生物多様性を担う里山二次林(環境林)
 農用林として農業肥料、燃料の提供を担ってきた平野部の広葉樹二次林は、利用目的を失い、次々と放棄され、都市化、宅地化の波にのまれていった。その結果、こうした二次林は面積的にも減少するだけでなく、虫食い状態に開発され、孤立・断片化の傾向を強めていった。また、かつての肥料・燃料利用を目的とする落葉かき、林床植生の刈り払いが行われなくなったため、ネザサの進入が著しくなり、本来の二次林特有の植物相が消失し、種多様性が減少している。そうした結果、都市近郊の二次林は荒廃が進み、人間活動の中で形成され、調和をもって維持されてきた二次林の生態系が急速にそこなわれている。こうした中で、これまでの二次林の利用管理ではなく、都市近郊の森林公園、ないしは環境林として二次林を位置づけ、保全・管理する動きが各地に見られる。この中で問題となるのは、かつてのような利用目的がなくなる中、同様の人為的撹乱をどのように加え、人為の影響の下で、二次林(里山)を維持させてゆくのかということである。現在、このような取り組みは、都市部を中心に行われている。その主なものは、森林公園化し、徹底的に人的管理におくものである。その結果、通常の公園管理の手法が導入され、利用者にとっての便宜やアメニティーが優先され、生態系としての森林を念頭においた管理が放棄され、無視されるケースが増えている。もう1つの流れは、市民のボランティア活動として取り組まれている里山の再生事業である。これは、短伐期に伐採と萌芽更新、林床処理によりかつての二次林(里山)の姿を取りもどそうというもので、部分的に炭焼きシイタケ栽培などを目的とする伐採も取り組まれ、さらには、広葉樹材を利用したバイオマス発電なども提唱されている。しかし、こうした取り組みは、林分管理の段階にとどまっており、二次林の開発行為に伴う孤立・断片化の問題は解決されていない。
 ドイツをはじめヨーロッパ諸国では、都市近郊林を積極的に環境林として位置づけ、その保全と再生に取り組む姿が見られる。しかも、これは人間の居住空間をよりよくするための目的のみならず、こうした森林が生態系として機能し、人間の活動が森林生態系の一部として機能する社会をめざすものである。そこでは、森林が生態系として機能するためのさまざまな試みがなされている。都市近郊林で問題となる森林の孤立・断片化に対しては、林分を開発から守るばかりでなく、孤立化した林分を植林などにより結びつけるコリドー(回廊)の造成も積極的に取り組まれている。
 日本においても、かつての里やまの姿を維持するというだけではなく、環境林としての生態系の健全性や安定性、生物多様性を確保する二次林の管理を考えるという視点が必要である。その手立てとして、過去のような管理ができない多くの二次林については、むしろ恒例の広葉樹林への誘導を考えるべきである。この際、留意すべきは、一般に農用林、薪炭林として、維持されてきた里山の二次林が同齢の萌芽再生林であることから、上木の階層構造が単純で種多様性が低いことである。こうした点を改善する方法として、小面積の伐採を繰り返し行い、全体として空間的なモザイク構造をつくりだし、さらに伐採面での新たな樹種の進入を期待すること、さらに、林冠の閉鎖が強まった段階では、ネザサの進入を許さない程度の間伐を実施することがあげられる。このような管理の下で、50~100年後に、高齢の比較的種の多様な環境林を都市近郊に創出してゆくことが可能となる。
 一方、従来の二次林も里山自然景観、あるいは文化的景観として重要であり、人為的管理の下で維持されてきた特異な生物相の生息場所を確保するという点からも、部分的には保全、配慮する必要がある。こうした二次林について、可能であれば、農用林的利活用が望ましいが、そうでなければ、二次林の保全目的だけの徹底的な人為管理(短伐期の萌芽更新と落葉落枝の採取)を行う必要がある。このような二次林は、景観的には、屋敷林、社寺林、針葉樹人工林はもとより水田、畑地などと一体となった管理が望まれる。その中で里山の生態系、生物相が総体として保全されることになる。(同書71~72頁、注略)
 筆者の鈴木和次郎さんは、森林総合研究所退職後、福島県南会津郡只見町のブナセンター長として活躍しています。