ぎょうせい発行の月刊誌『ガバナンス』2015年10月号は、気候変動に「適応」した地域づくりを特集しています。

  石郷岡康史「農業分野の適応策」(32~34頁)の水稲の部分に注目して読んでみました。

・気候変動の影響を強く受ける農業分野

・品質低下が深刻な水稲
 ……品質の指標である一等米比率は、特に西日本において低下が著しいが、米粒が白く濁る“白未熟粒”の発生による等級落ちが主な原因の一つである。白未熟粒は、稲の出穂後の登熟期前半に高温・低日照の気象条件で発生しやすくなることが知られており、近年の夏季の高温傾向により発生が頻繁になっているといえる。夏季の平均気温が観測史上最高となった10年には、北海道を除く殆どの地域で一等米比率が低下するなど、各地で深刻な品質低下が見られた。特に、新潟県や群馬県、埼玉県等では一等米比率が最近30年間で最低レベルとなった。さらに、群馬県と埼玉県においては規格外米が多く発生し、作況指数の大幅な低下がみられた。
 予測されたいるように今後さらに温度上昇が継続すれば、収量への影響も懸念される。高温による水稲収量への影響に関しては、高温で発育が早まることで全発育期間が短縮し光合成によるバイオマス蓄積量が減少すること、開花期に極端な高温に曝されると受精障害による不稔が増加することの二つが減収の大きな要因とされている。……

・地域の特性等を踏まえた適応策
……高温影響軽減のための適応技術としては、作物が高温に曝されることを回避する技術(高温回避型)と、作物の高温に対する耐性を高める技術の2種類に大別される。前者には、高温に対する感受性の高い発育ステージが高温になりやすい時期に当たらないように栽培時期を調整する、あるいは作物体の温度を下げるような処置を施すといったことがあり、後者には、適切な土壌・肥培管理による高温耐性の増強や、高温耐性品種の育成と導入、さらには作目の転換(栽培作物の種類を替える)などがある。
 水稲の白未熟粒は出穂後の登熟期前半の高温が主要な原因と考えられているため、現行の栽培スケジュールにおいては登熟期が高温期に当たりやすい地域では、田植えの時期を移動する、早晩性の異なる品種を導入する、あるいは直播により発育を遅らせることで、登熟期を高温期から回避させる方法が有効と考えられている。……
 西日本の暖地では、早期栽培による高温回避の方法も有効な適応策と考えられている。……
 移植後の高温影響回避策としては、土壌や水管理を徹底することで稲体の活力を維持し、高温耐性を高めることが重要である。また高温期に十分な灌漑水が得られる地域では、掛け流し潅漑による直接稲体温度を下げることで、品質低下を抑制することも可能である。
 白未熟粒の発生は、高温のみではなく登熟期の低窒素状態も原因の一つである。特に近年では食味重視のため施肥量が削減されてきており、生育期後半の窒素不足に高温ストレスが加わり、白未熟粒が発生しやすくなっている可能性が高い。……

・注目される高温耐性品種への転換
 高温環境における栽培においても品質低下等の影響を受けない高温耐性品種への転換は、現在モットも注目されている適応技術といえる。……九州沖縄農研で育成された「にこまる」、山形県の「つや姫」、富山県の「てんたかく」、福岡県の「元気つくし」、熊本県の「くまさんの力」、千葉県の「ふさおとめ」などがあり、……

・実効性のある適応策導入のために
 温暖化は我が国の農業に対して深刻な影響を与えうることが明らかになってきているが、一方で冷害の減少や栽培可能期間の拡大、新たな暖地作物導入の可能性が広がる等、プラスの影響も期待できる。……
……温暖化が無条件でメリットとなるわけではない点にも注意が必要である。
……水稲の作期移動の場合、比較的低コストで実施できる適応策といえるが、水利慣行や労働力確保の観点から、大幅な移植期移動が困難な場合もあるなど、効果や重要性が高い適応策でも容易に導入できない可能性も存在する。
 適応策導入にかかわる制約要因は地域特有の社会的特性により異なるため、適応策社会実装には自治体が主体となることが重要……

※森田敏「温暖化に対応したイネの栽培技術改変」(日本学術会議・農学委員会・農学分科会、農業生産環境工学分科会『気候変動に対応した作物栽培技術の現状と展望』2014年8月7日掲載)
高温登熟障害の対策技術を高温への対峙のしかたによって分類すると、まず、高温回避型と高温耐性型に分類できる。また、別の視点として、作付け時からあらかじめセットしておく予防型技術と、栽培の途中で高温が発生してからあるいは高温が予測されてから施す治療型技術に分類できる。例えば、すでに多くの県で進められている遅植えは、作付け時の選択であるため予防型であり、また登熟気温の低下を狙った高温回避型であるが、同時にイネの形態・生理の変化を通した高温耐性型である可能性もある。品種も予防型であり、近年育成された耐性品種の品質向上効果が実証され、普及が進んでいる。治療型かつ高温耐性型の技術は、インフルエンザに例えると発症後に処方される抗ウィルス薬に相当し、高温障害においてもこのような処方箋があれば、生産者にとって大きな安心につながると思われる。現状では、生育後半の窒素施肥が治療型かつ高温耐性型の有望技術の一つと考えられ、九州沖縄農業研究センターでは気象庁による確率予報情報と葉色測定などの生育診断とを組み合わせて窒素追肥の判断を行う「気象対応型栽培法」の確立に向けて試験を重ねている。将来的には、インターネットを活用した情報発信に結びつけたいと考えている。
森田敏「イネの高温登熟障害の克服に向けて」(『日本作物学会紀事』77(1)  1~12頁、2008年)

埼玉県は環境科学国際センターが専門的な知見を整理する役割を担って、早くから気候変動の適応策の情報整理や計画策定を行ってきた先進県だそうです。
荒川 誠・石井博和・大岡直人「2010年の埼玉県における水稲白未熟粒多発の要因」(『埼玉農総研研報』(11) 27~31頁、2011年)
埼玉県の水稲は35、800ha作付けされ、早生種を用い、9月上旬までに収穫する早期栽培、5月末までに移植を行う早植栽培、6月以降に移植を行う普通栽培に分類される。それぞれの作型別割合は、早期栽培30%、早植栽培45%、普通栽培25%(2006~2010年の平均、埼玉県農業支援課調べ)である。
このことは、天候による作柄変動に対するリスク回避に有効であり、1993年の冷害では全国平均作況指数74に対して、埼玉県は93で全国9位と被害が少なかった。しかし、2010年の夏期の異常高温では、作況指数は県西部85、県東部87、県計86、全国46位、水稲うるちの一等米比率は24.4%と極めて低い水準となり、作期分散で被害を回避することはできなかった。
特に出穂時期が遅いために、高温耐性をあまり必要としなかった晩生、中晩生の水稲うるち品種「彩のかがやき」、「彩のみのり」では、一等米比率が1%未満となり、2等以下への格付け理由の多くは白未熟粒であった。……
埼玉県環境科学国際センター「緊急レポート・地球温暖化の埼玉県への影響 概要版」(2008)

埼玉県「ストップ温暖化・埼玉ナビゲーション2050(改訂版)埼玉県地球温暖化対策実行計画」(2014)

白井信雄「気候変動の地元学」により、気候変動を自分事化しよう」
 (ブログ『サステナブル・スタイル ~白井信雄のブログ 地域の足もとから、持続可能な社会を目指して』2015年6月13日記事)